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鋼騒動。

説明するつもりはないんだからねっ

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涼宮ハルヒのSS 第一話

 この作品は管理人が勝手に考えた涼宮ハルヒシリーズのの二次創作小説です。それらの作品とは全く関係がありません。嘘っぱちです。原作と多少違う点がありますが、それは仕様です。きっと。

 原作とアニメを見ていないとわからないことが含まれております故、そちらを読まれてから読むことをお勧めします。最低限、憂鬱・消失、サムデイインザレインは見ていていただきたいです。


 読む場合、自己責任でお願いします。「俺の○○がぁー」や「何でこうするんだよ」的な発言は即時却下いたします。ご了承あれ。

 感想はできればメールのほうへ。コメント欄に書かれると後々面倒なので(ぁ
 アドレスはプロフィール参照で。


 では、どうぞ。長いのも仕様ですのでw
 長くちゃSSじゃない? そこはほら、別なのが入るんですよ。例えば……ほら、サイドストーリー……ってそれは違うかw



 時はもう三月である。もう春だというのにまだ肌寒い。さすがにコートは着るまでもないが。

 至るところで世界に何らかの影響を及ぼしていたあのハルヒも最近はだいぶ落ち着いてきているようで、あの部誌発行騒ぎのあとからトラブルを起こすこともなく、まったく平凡すぎて面白くないほど平凡な日々が続いていた。
 平凡であることが今までは普通だったのだが、この一年のせいで俺の平凡な日々という日常は変わっていたようだ。
 そりゃあ毎日のようにハルヒに連れ回されて非日常的事情が起こっていれば、平凡なんてどこへやら、波乱の毎日だったさ。
 しかし、ふと平凡が戻ってくるとこのような感覚が襲ってくる。
 つまりは俺も楽しんでいたのさ。毎日が非日常なことをな。
 ……ま、平凡な日がそう何日も続くわけがない、どうせまたハルヒが何かやりだすんだろう。そう思った矢先だった。


 SOS団部室と完全に成り下がってしまっている文芸部室へいつものように顔を出し、さらにいつものように長門が窓辺で本を読んでいることに安心を覚え、数分間他の団員を待っていた頃だった。
 勢いよくドアが開け放たれ、何事かという顔でドアも眺める。そうやっていながらも、実際は何が起きてるかなんて頭の中で予想はつく。
「キョン! 有希っ! 今日は重大発表があるわよ!」
 目を輝かせたハルヒが予想通りそこに立っていた。後ろには古泉と朝比奈さんもいる。こいつがこんな目をしているときは大抵何かよからぬことを企んでいるものだ。それが人様の迷惑にならないことでなければいいのだが。
「大丈夫ですよ、あなたが心配するようなことは考えておりません」
 あいつの後ろから古泉がそのように言ってきた。言葉からするにお前は知ってる口だな。
「えぇ、もちろんです。準備等が任されてましたから」
「キョン、すぐ説明するから待ちなさい」
 ……やれやれ。また裏で機関が動いてるかもしれないな。面倒なことにならなければいいが。

「今度の日曜日、あたし主催のボウリング大会を行うわ」
 ボウリング、ねぇ。ここ最近ずっとやってなかったな。最後に行ったのが……数年前か。
 というか何もやってないのも毎度毎度休みが消えているせいだろう。不思議探索やらなんやらで。
「古泉くん、会場は準備できてる?」
「はい、予約済みです」
 そういうことか。そういや毎回会場などの裏のことは全部古泉がやってくれてる気がするな、あとで礼の一つでも……
「どうしました?」
 そう思い、ふと古泉を見るとあいつはいつものにやけ面で俺を見てきた。気が変わったやめておこう。
「わたし、ボウリングやったことないんですけど……」
 いつ中に入ったのか、近くにいた朝比奈さんがそのようなことを言い出した。いいんですよ、あなたは人を安らぎの空間へと誘ってくれるのですから。ボウリングなんてやってなくても構いません。
「大丈夫よ、すぐできるようになるわ」
 ハルヒが一言。こいつは今まで何を見てきたのだろうか。あの朝比奈さんがすぐにできるようになるわけがない。ガーターどころか隣のレーンに球を転がすかもしれないからな。それはそれでいいものではあるが。
「ところで涼宮さん、ただやるだけというのも面白くないような気もしませんか?」
 と、古泉が途中、そんなことを言い出した。何を言ってやがる。
「大丈夫ですよ。さすがに涼宮さんも問題になるようなことは言わないでしょう」
 それがそうなればいいんだがな。
「それもそうね……よし、優勝者が一日の間全員に何でも命令できる、っていうのはどう?」
 ハルヒの口からそんなことが発せられた。お前は毎日のように俺に命令してるだろう……って、ん?
 つまり俺が勝てば何でもできるわけか。ということは朝比奈さんにあんなことやこんなこと……
「不埒」
「うわっ、長門っ!?」
 そんなことを考えていると長門に咎められた。周りからの目も冷たい気がする。特にハルヒの。
 すまん。実際やるつもりはないがな。
 まぁ、とりあえずハルヒへの日頃の恨みが解消できるわけだ。参加しないわけにはいくまい。
「全員参加でいいわね。じゃあ日曜日朝九時、いつもの場所に集合! いいわねっ!」

 そんなわけで日曜日、俺は朝早く起床し、朝食をしっかりと摂ってから自転車に跨がり、集合場所、いつもの駅前の喫茶店に急いだ。到着したのが八時三十分。周りにSOS団面々は見えない。今回は奢るようなことはなさそうだ。
 まぁ、毎日奢らされてれば財布の紐も切れ、俺は無一文となってしまう。まだ今月は半月残っているのだから、そうなってしまったら俺はどうしたらいいのだろうか。お袋にたかるわけにもいかない。避けておきたい。
 とりあえず立ったまま待つのもどうかと思い、俺は近くにあったベンチに腰掛けた。朝から全力で自転車のペダルを漕いでれば、足も痛くなってくる。
 去年の春に自転車の不法駐車で学んだため、今回は駅の駐輪場にちゃんと停めてきた。これで盗まれたりしたら元も子もないが、泥棒もカギのかかっている自転車をわざわざ盗んだりはしないだろう。
 それにしても何が楽しくて三十分も待たねばならんのだ。こういうのはだな、最後の一つ前が一番楽なのさ。奢る必要性もなく、待つ時間も短いしな。
「……それならもう少し遅く来ればいい」
「ぬぉ!?」
 反応があったことに驚き、あたりを見回すと長門がいた。いつの間にベンチに腰掛けた。……まったく、この前といい、今日といい。お前は気配隠蔽か瞬間移動ができるのか? もしくは空間移動。
「原理としては可能。しかし、今回は使っていない」
 ああ、そうかい。
 普段着の長門を見て、そういや初期は制服だったな、と思いつつ、本を広げた長門を眺める。
 こんななりでも宇宙人――正確にはアンドロイド――だが、こんなのが宇宙人、とか言われて信じる人がいるだろうか。ほとんどいないだろう。
 いや、そもそも信じたやつはバカというものではないだろうか。どう見ても一端の女子高生、何か宇宙人と証明できる宇宙的パワーでも見せられれば別だが、普通にしてれば信じるやつはいないだろう。
 いや、俺は見せられた立場だから信じているわけだが。
「…………なに?」
 ずっと長門を眺めていたことがあちらも少し気になったようだ。
「あ、悪い。読書を続けてくれ」
 別段他意もなし、さすがにこのままも悪いと思ったので、俺は視線をそらす。
「…………そう」
 沈黙が流れる。
 ある程度非常識なことが起きても驚くようなことがなくなってきた俺ではあるが、さすがにこんな沈黙の中何分も待っていられるような能力を持っているわけではない。隣にいるのが朝比奈さんであれば話題もあるだろうが、相手は長門である。古泉と二人仲良くベンチに腰かけているような状態と比べれば天と地雲泥の差だろうが。
 それから数分経っただろうか。ハルヒがやってきたようだ。いつもは破壊を振りまく悪魔のようなあいつが、今は天使のように見える。俺の目がおかしいと思いたい。
「あ、何? キョンもう来てたの? これじゃまた奢りがあんたじゃないじゃないの」
「そんな毎日奢ってられねぇよ」
 第一なんだ、また俺に奢らせるつもりだったのかこいつは。傍若無人にもほどがある。
「まぁいいわ。有希もいることだし、古泉くんとみくるちゃんが来るまでここで待ってましょ。キョン、あんたどいて」
「おい待て、うぉっ」
 半分どころか確実なる理不尽さを全面的に押し付け、ベンチから俺を引き落とし、当の本人は何事もなかったかのようにベンチに座る。相変わらず長門は本を読み続けている。
 今に見てろ。


「さて、皆来たことだし行きましょう。古泉くん、ここからどれくらいかかるの?」
「大体三十分ほどで」
 いつもの喫茶店の中でコーヒーをすすりながら、全員でこれからの行動の再確認を行っていた。
 移動手段はバス、到着とともにボウリング開始、ボウリングは一ゲーム一回きり、ゲーム終了後は優勝者の好きなように日程を決めるらしい。
「いくら何でも好きなように、って言ったって常識をわきまえなさいよ。キョン、いいわね!」
 俺だけかよ。というよりも一番常識をわきまえてないのはハルヒ、お前のような気もするのだが。
 まぁ、何はともあれ、だ。コーヒーを飲み干し、さっさと喫茶店をあとにする。もう少しのんびりコーヒーを飲んでいたかったのだが、ハルヒに首を捕まれちゃあどうしようもない。
「ほらほら、さっさと行って始めるわよ! 今日という時間は少ないんだから!」
 我らが団長様は開始前から優勝者のようである。まだ始まっちゃいないぞ。命令は優勝してからだ。
 そんなことを言うような時間はなく、丁度よくバスが来たためそれに乗り込む。ここまでぴったりだと何たらスイッチみたいだな。
 それはそうと今日の喫茶店奢りは古泉である。たまにはいいだろう。お前も男さ。


 バスは思ったよりも混んでいた。通勤ラッシュかと言わんばかりに。
 そもそもバスにはほとんど乗ったことがないので、もしかしたら普段通りなのかもしれないが。
「こういう体験もたまにはいいかもしれませんね」
 涼しげな顔で古泉が言う。こんな場面でそんな顔を見せられても何も楽しくない。いつ見せられても楽しいものではないが。
「機関にも移動手段があるだろうからな。普段はそれだろ」
 そう言いつつ、他の三人を探す。長門はすぐ側にいるが、ハルヒと朝比奈さんとは少し離れてしまっている。朝比奈さんもハルヒがついていれば大丈夫だろう。
「いえ、前も申し上げた通り、僕は普段は普通の高校生ですよ。あなたが考えている一般の高校生がしないような行動はしていないつもりです」
「神人狩りはどうなんだ。明らかに一般の高校生はしないことだろう」
「もちろんそれは除外しますよ。それは今、僕がここにいる理由の一つですしね」
 その辺りで俺は古泉と話すのをやめ、ふと長門を見る。こんな込み合っている中でも本を読み続ける姿には感服できるものがある。
「…………」
 相変わらず無口だ。周りなんて何のその。
 こうやって長門を見ていると、なんだか落ち着いてくる。感化されているのだろうか?
「長門さんと何か?」
「ん?」
 また古泉に話しかけられた。こっちは逆に苛立ってくるものがある。そのにこやかな顔を俺に向けるのはやめて、どこかの女性にでも向けたらどうだ。ホイホイついてくるだろうから。
「そう思っているなら今後からあまりあなたにはこの顔をしないようにしましょうか。ところで質問に」
「答えてくれ、だろ? 別に何もないが」
「本当に、ですか?」
 古泉の言葉を遮ってまで否定してやったのに、やけに食い付いてくる。何なんだ、ないって言ってるだろう。
「そのわりには顔が緩んでますが」
「何を言っているんだお前は。顔なんて緩んで……」
 ない、と言おうとしたのだが、今気付く。確かに緩んでいる。長門を見ていて、だろう。
「僕としてはあなたが誰を思っていようと構わないのですが。涼宮さんの逆鱗には触れないように。……さて、そろそろ降りますよ」
 ハルヒに見られていないことを祈るさ。今後は気を付けようと思うしな。


 ……と、どうやら俺には天使ではなく悪霊が取り憑いているようだ。
「キョーン? あんたは何であんな顔をしてたの?」
 ハルヒに詰め寄られていた。もちろんさっきのことだ。どうやらしっかりと見られていたようだ。
「あー、それはだな……」
 万事休すか、俺。
 とか思ったのだが。
「……まぁ何だっていいわ。どうせ何かやらしいことでも考えていたんでしょ」
 急にハルヒが身を引いた。理由を考えていたのに無駄足だったようだ。その前に、そんなことなど考えていない。断じて。
「さっさと行くわよ、今日なんてすぐ終わっちゃうんだから」
 それは前にも聞いたが、という俺の言葉をハルヒは聞く耳を持たず、さっさと目的地へ向かう。
 まともなボウリングとなることを祈りたいものだ。もうまともがどんなものだかわからなくなってきてるがな。

 よくよく考えるとこの時間からやっているボウリング場なんてないような気がするのだが、やはり古泉である。
 機関には開店時間を早める力でもあるのか、普段十時開店の店がもう既に開店していた。この力を普段使えればいいのだがな。買い物が楽になりそうだ。
 もっとも人気商品の発売日や人気ラーメン店などは開店前から行列ができるというから、開店するのを早めたところで意味をなさないが。
「さっさと始めるわよ」
 予約速し。その速度、風の如く。
 まぁそんなことはどうでもいいのでとりあえず開始、一番はハルヒである。やはりと言うべきか、なんと言うべきか。
 今日こそは日頃の鬱憤を晴らしてやる、そう思いつつ俺はこのボウリングに挑んだのだが、圧倒的力の差を見せつけられることになる。
 まぁ順番は最後なので、球をゆっくり選びに行く。重すぎず、軽すぎず、自らにあったものを。少し重めのほうがいいだろうか。
 時間をかけて球を選び、戻ってくる。次は古泉だ。そしてその後が俺。椅子に腰掛け、得点表を見る。
 ああ、やはり朝比奈さんはガーターか。十回までに倒せるんですかね?
 ハルヒと長門……順にストライクとスペア。おいおい、一球目からか? さすがと言いたい。
 とか見てるうちに古泉が戻ってくる。奴の記録は六本。
 さて、次は俺か。
 俺はゆっくり立ち上がり、先ほど選んだ球を持つ。
 話によるとレーンの球を転がす床の部分には油のようなものが塗ってあるらしく、投げた直後は縦回転のドライブ、ピンの手前で横回転となるようにし、丁度ピンに触れる頃にど真ん中にくるようにプロは調整しているらしい。球をタオルで拭くのはその油を拭き取るためだな。
 まぁ一般人の俺にそんな芸当ができるわけもなく、普通に投げる。
「む」
 真っ直ぐ直線にピンを捉えたつもりだった。しかし、球は直前で方向を変え、三本を残す。
 せめてスペアだ。スペアのあとストライクならまだ追い付ける。
 そう考えた二球目。狙い過ぎたためか、ガーター。溝落ち。
「んー、有希以外は張り合いないわね」
 我が団長様は上から目線である。言ってろ。すぐに追い付いてやる。

 ……なんて言ったはいいが。
 どうやら俺はハルヒを甘く見ていたようだ。奴は現五回までにストライクを四回、スペアを一回。どこのプロだよ。
 それに対して俺は、ストライクを一、スペアを一。もうすでに追い付きようのない状況である。記録を出せない自分の腕を呪うぜ。
「ふっ」
 そしてあいつは五回目のストライクだ。もう追い付けないね。確実に。
 だが優勝はハルヒと決まったわけではなく、一人張り合う奴がいる。長門だ。最初の一回こそスペアだったものの、残りは全てストライク。今投げたのも……ストライクだな。
 というかどうしてあんなフォームであれだけの威力の球が投げられるんだろうね。宇宙的パワーって奴か?
 まぁ首位争奪戦は太刀打ちできないので、俺は古泉と張り合うことにしたい。朝比奈さんは言うまでもない。
「……なんで真っ直ぐ転がらないんですかぁ」
 朝比奈さんはこんな調子で毎回ガーター連発である。さすがに隣のレーンに投げるようなことはミスはしないが。それにしても朝比奈さんの涙ぐんだ表情。俺を癒してくれる朝比奈さんこそ、俺の天使だ。もうこの際結果なんて関係な……
「いやはや、あの二人はすごいですね。どうやったらあれだけ上手く投げられるんでしょうか」
 古泉はそう言い残し、球を投げに言った。
 前言撤回。せっかく心を和ませていたというのに、こいつのせいで台無しである。決めた、ハルヒや長門には負けてもいい。優勝できなくてもいい。こいつには勝とう。
 ちなみに奴はほぼ俺と同得点である。俺のほうが少し高いのだが。
 そして今、あいつはスペアを出して帰ってきた。次は俺である。
 もういい、どうにでもなれ。
 ここでストライクを出せば差をつけることができそうなのだが、無理だろう。俺は狙った時にストライクを出せるような実力は持っていない。
「やっぱりキョンに優勝は無理よねぇ」
 残念なことにその通りだ。開始前は優勝できると思っていたんだがな。
 まぁそう思っても今は仕方がない。俺は球を持ち、明らかに素人臭いフォームでピンを倒すべく、投球。
「あー……」
 投げた球は思い切り右に逸れ、この流れはガーターである。
 俺は半ば諦めていたのだが、球はガーターに落ちず、その位置で方向を変え、今度は左に曲がる。
 そして全てのピンを吹き飛ばし、上部画面に大きく“STRIKE!”の文字が浮かぶ。
「キョン、何今の? あんたの必殺技?」
 俺にはそんなプロ級の必殺技を使えるほどの技量はない。投げるフォームも適当、それであんな球が投げられればプロなんてすぐになれる。
 ハルヒもそれ以上追求することもなく、ゲームは続く。
 一つ、思い浮かぶ節がある。ここで涼しげに本を読んでいる、長門。こいつならできそうな芸当だが。だが、頼んでもいないようなことをやるだろうか?
 まぁ、一応聞いてみることにする。
「さっきのはお前がやったのか?」
 ハルヒが投げている間、俺は長門にそう尋ねた。
「…………」
 おーい、長門さん? 聞こえてますか?
「聞こえている」
 すぐに反応が返ってきた。
「もう一度聞く。さっきのはお前か?」
「……………………」
 駄目だこりゃ。ハルヒもまたストライクを出して帰ってきたからな。ええい、奴は化け物か。

 流れはそのままだったが、長門とハルヒの決着は長門の勝利に終わった。で、俺は古泉にも勝った。あのストライクがなかったら負けていたが。
「うー、有希が一位?」
 素晴らしく不機嫌そうにハルヒが言う。残念だったな、優勝できなくて。
「ん? ということは、命令権は長門にあるのか」
 まぁ、長門ならハルヒのような無茶はさせないだろう。安心だ。
「仕方ないわね。じゃあ有希、どんな命令してもいいわよ」
 ハルヒが言う。先程の不機嫌さは微塵もない。
 まぁ、付き合ってやるよ。長門だしな。

「……これ。買ってきて」
 長門はそう言って、ハルヒ、朝比奈さん、古泉に買い物リストを渡す。
「十二時に集合」
 長門のその言葉で各自動き出す。で、俺はどうすればいいんだ?
「あなたにも買ってもらいたいものがある」
 と、長門。だったら買い物リストをだな……
「来て」
 長門はそう言って歩き出した。ついていくさ。命令だしな。
 何やらいやな予感がするのだが。

「これ。買って」
 長門が今指差しているのは、青いマフラーである。
 ところでここは、ボウリング場だけでなく、様々なものを売っていたりする大型の店舗だ。近くにこんなところはないからかなり驚いていたりする。
「マフラー? もう暖かくなってくるぞ?」
 今はもう三月。こんな時期にマフラーを買ってどうするのだろうか。
「今日は寒い」
「まぁ、そうだが」
「買って」
「……わかったよ」
 俺は長門が指差したマフラーを持ってレジへ行く。
「すみません、これください」
 長門も後ろについてくる。
「はい。……後ろの彼女にプレゼントですか?」
「彼女じゃないですよ」
 否定する。まぁ、こんな状況じゃそう思われても仕方がないのかもしれないが。
「でも、後ろの女の子へのプレゼントでしょう?」
 まぁ、そうなりますが。
「でしたら、これをつけておきますね。当店からのおまけです」
 と言われて、袋を差し出される。
「中、なんですか?」
「それは開けてから、ですね」
 教えてくれなかった。気になる。非常に気になる。
「マフラー、一点で三千八百円になります」
 と言われて、一瞬何の話かわからなくなる。ああ、代金ね。……高くないか?
「特別製、ですので」
 聞く話によると通常一万円するものをこの値段で売っているらしい。諭吉先生一枚とは、このマフラーはどれだけ高価なんだ。
 まぁ、一万もとられたら俺の生活が危うくなるわけであるので、今回半分以下で買えたことに感謝するほかない。
 その買い物を終え、時間を見る。今から戻れば集合時間に丁度良さそうだ。
「長門、行くか?」
 首を縦に振る。
 というわけで来た道を引き返し、ボウリング場へ向かう。あいつらは買ってきたかね?
 そういえば店員の声に聞き覚えがあった気がする。気のせいだろうか。


「長門」
「…………」
 あのあと全員と合流し、昼食を採ったあとに解散、となった。
 だが、俺は家に帰らず、今、こうして長門の家へと向かっている。何故だ。
「……来てもらいたい」
 俺はその一言に従うしかない。ハルヒが決めた命令権は“今日一日”。つまり今日は長門に逆らうことはできないわけだ。ハルヒめ、面倒なことを。
 まぁ、悪い気はしない。呼ばれるのが長門だからな。古泉だったら俺はダッシュで逃げ帰るだろう。命令? 何それ以下略、だ。
「で、長門よ。何故俺を呼んだ? 何か理由があるんだろ?」
 こいつが何の理由もなしに俺を家に呼ぶはずがない。過去にも理由があった。だから今日は何の話だ?
「別に」
「……理由なし、とな?」
「そう」
「…………じゃあ俺は何でここにいるんだ?」
「…………」
 無言。何も得られそうにない。
 まぁ、こういうのもたまにはいいか。谷口が何を言うかわからんが。


 こうやって長門の家に上がるのは何回目だろうか。五月に一回、七夕に一回……あー、数えるのが面倒だ。
 とりあえず中に入る。最低限の生活ができる程度の家具がある、前に見た光景そのままだ。炬燵が出ていたので、即座に潜らせてもらう。やはり寒さには勝てない。まだ温まってないが、気分だけだ、気分だけ。長門は俺の反対側、向かい合うように座る。
「……本当に理由もなしに俺を呼んだのか?」
 その状態で確認を取る。長門はコクリ、と頷く。
「あなたが思うような危機が起こっているわけではない」
 いや、確かにそれもそうだが俺が聞きたいのはそういうことじゃなくてだな。
「…………」
 長門は考えるような素振りを見せ、一言。
「今日は、招待」
 ……長門が何を考えてるのかよくわからん。招待なら全員を呼べばいいものを。
 まぁそんなことよりも。
「……自分の家のようにくつろいでいいか?」
 どうにも疲れが出ているようだ。無理な運動をしたわけではないのだが、身体が休息を求めている。気疲れ、ってやつだ。
 別に休まなくとも何とかなりそうな気もするが、長門の家で時間を潰せそうなことはない。本も今は読む気になれないしな。
「……どうぞ」
 その声を聞き、安心する。まぁ、長門が駄目と言うわけがない、とは思っていたが。
 少し横になると、すぐに睡魔が俺を襲ってくる。抵抗する気はなく、そのまま魔の手に飲まれていき、意識が遠のいた。


 俺は暗闇の中にいた。
「ここは……どこだ?」
 地面はあるようだが、周りがまったく見えない。壁があるのか、ないのか。段差があるのか、ないのか。まったくわからない。
「何なんだ……? またあいつの仕業じゃないだろうな」
 こんなことができるような奴を知っているが、特に何もない以上、その可能性は低い。あいつとて、何の理由もなく無駄にこんなことはしない。自覚はないだろうが。
「……っ、誰だ」
 ふと、自身の前に人の気配を感じた。視覚が機能しない空間だからだろうか、他の感覚は研ぎ澄まされているようである。
「…………」
 あちらが声を発することはない。まるで、それが普通であることのように。
 俺も黙ったままだ。何者かわからない以上、不用意な会話は避けるべきと、何かで聞いた気がする。最も、こんな場所で実践することではないと思うが。
「大丈夫。怖くなんて……ないから」
 この沈黙を破り、あちらは言う。聞き覚えのある声。
 俺は足を一歩踏み出す。本能が警告する。近付いてはならないと。だが、身体は言うことを聞かず、一歩、また一歩と距離を詰めていく。
「お前は……」
 近付くにつれ、相手が見えてくる。見覚えがある。そう、あいつだ。
「私に、任せて」
 今までは頼れる存在だった。だが、今は違う。今目の前にいる彼女は別な何かのように感じる。彼女であって、彼女ではない。そんな何か。
「心配しないで。私は、ずっとあなたの側にいるから」
 離れろ……!
 そう身体に言い聞かせているのだが、まるで操られているかのように言うことを聞かない。いや、操られている……?
 やがて、俺と彼女の距離がなくなる。
「それでいい。私は、あなたと一緒にいる」
 そして、彼女が見せる。

 その、笑顔を。



「う……」
 ここは……、どこだ?
 橙色の光が窓から差し込み、部屋をその色に染め上げている。先程の世界とは大違いだ。
 ……長門の家。眠ったときと同じ。
 先程の光景は夢、だろうか。その割には現実味があった。感じた恐怖、そういう五感に関わったことが。
 その夢のほとんどのことは覚えているが、唯一、彼女のことだけは覚えていない。夢の中では誰なのかわかった気がするのだが。
 まぁ、たかが夢、重要視することもないだろう。
「……起きた」
 長門の声がしたので、そちらを向く。長門は床に足を崩してぺたん、と座っていた。珍しいな。普段なら正座だろうに。
「やっぱりお前もずっと正座で座ってると足が痛くなるのか?」
 直接聞いてみる。本人にしかわからないことは聞くべきだ。調べてもわからないしな。
「……行動上の支障はない」
 とのことだ。やはりこいつといえど、足は痛くなるらしい。人に近いんだろうな、やっぱり。
 長門が変わったのだろうか。もともとそんな感覚はなかったのかもしれない。だが、いつからか人間に近くなってきて……なんてな。
 それもあり得る話なのだが。いつか古泉が『長門が普通の人間になるかもしれない』とか何とか言っていた気がする。もちろんそうなってくれれば俺としてもうれしいし、って何を考えているんだ。
「ごはん」
 そのような妄想に近い想像を働かせていると、いきなり長門が言った。飯がどうした。
「ごはん、食べる?」
 時計を見ると六時を回っていた。大体食べてから六時間といったところだ。適度に腹も減っている。ここから徒歩で家に帰るのは気が引ける。途中空腹に倒れたくもない。
「……ああ」
 そう考えての決定だ。別に食べていきたいわけじゃない。
 この時帰ればよかったのだが。


「食べて」
 ……出されたのはあの時と同じレトルトカレーだった。あの時は俺、朝比奈さん、長門と三人いたためそんなに多くは感じなかったのだが、今こうして目の前にしてみるとやはり大量にあったんだな、と思う。ハルヒよ、やはりお前は俺を疲れさせる立場にあるんだな。
 そう考えている間にも、長門は黙々とカレーを食べている。こいつの腹の中はどうなっているんだろうね? 確かめたいくらいだ。
「…………?」
 長門は目の前で首を傾げる。いや、そうされても困るのだが。
「……多い?」
 まさにその通りだ。
「でも、食べて」
 長門のその言葉に対抗するよい手段が思い浮かばないので、とりあえず手を動かすことにする。
 まずスプーンで一口分をとり、口に運ぶ。
「あー……」
 はっきり言わせてもらおう。多すぎる。
 今の量が盛られてる百分の一にすら満たないのだ。こうして見ていると大食い選手権に出ている人が尊敬できる。俺に出れるような競技じゃないんだからそれに出ている人に代わってもらいたい。
 と、そんなことを言っててもカレーの量は変わらないのだから、諦めて食べることにする。
 いつの間にか長門の皿は半分以下だ。交換してほしい。


 何とか先程の障害を排除し、よく腹に入ったなと思いながら、俺は今風呂に浸かっている。歩いて帰れば吐きそうだからな。車でもあれば帰れるが、あいにくそんな都合のいいように物事は進まない。
 満腹感というものはそれが胃に入る限界を表すものではない、と理解できた。とはいえ、それを感じてから大量に食べるのはやめておこう。今後こんなことになるわけにはいかないからな。
「ふぅ……」
 とにかく、だ。これからどうするべきか。長門の家にこのままいるのも悪いが、だからと言って今から帰るとなるとそれはそれでどうにもならない状況、まぁつまりはどうにもならん。
 もともと何でこうなったのか、身体を洗いながら考える。原因の根源はハルヒだ。それしかない。
 そんなときだ。戸が開く音がしたのは。
 最初は気にしなかった。音自体は小さかったので、どこかの部屋の戸の音だと思ったのだ。
 しかし、何かが湯槽に浸かる音がしたので、俺はそちらへ振り向く。
「なん……どわっ!」
 湯槽のほうを向くと、そこでは長門が浸かっていた。
「な、ななな長門!? 何してるんだそこで!?」
 動揺を隠せない俺はさぞかし滑稽だっただろう。なんて冷静に言ってる場合ではないのだが。そういえば衣擦れの音が聞こえたような。
「……お風呂」
「それはわかってる! 何で今入るんだ今! 俺が入ってるだろ!」
「……駄目?」
 話が通じん。こいつに恥じらいはないのだろうか。ないのかもしれんが。
「いや、駄目というかだな、仮にも高校生だか」
「問題ない」
 話を遮って長門が言う。何が問題ない、だ。問題だらけだ。
「はぁ……」
 こいつは言って聞くようなことだったら最初からしない。仕方がないがこのままだ。
 大丈夫、あっちは人間じゃない。宇宙人だ。そうだ、人間じゃないんだ。と自分に言い聞かせ、身体を洗い終わった俺は湯槽に浸かる。ああ、律儀にバスタオル巻いてるな。
 言い聞かせたはずなのだが。やはり隣にいるのはほぼ人間の女子高生であり、つまり……って何を考えているんだ俺は。
 それよりも、今日は長門の様子がおかしくないか? いつもは傍観している立場にある長門が積極的に動いている気が
「何もない」
 心を読むな。
「心を読んでいるわけではない」
 それ自体が心を読んだ発言に思えるが。
「あなたの発言に対して対応しただけ」
 ……What? 何だって?
「先程よりあなたの口から発言されているものに受け答えしただけ」
「……つまり、俺はさっきから喋ってると?」
「そう」
「マジか」
「マジ」
「……どこからだ」
 思っているだけのつもりだったのだが。喋っていたのならどこからか知りたい。
「大丈夫、あっちは人間じゃない、の辺りから」
 ほぼ全部だったようだ。
「…………そうか」
 俺は肩を落とす。まさか全部口に出ていたとはね……というか聞こえていたのなら長門、すまん。お前は人間だよ。
「……大丈夫?」
 長門が声をかけてくる。吐息を感じるほど、って
「近いっ!」
 俺は長門から離れるように動……こうと思ったのだが、湯槽が狭いためにあまり離れられない。
「……別に体調が悪いわけじゃないから安心してくれ」
 そう言うと長門は納得したのか、湯槽から出る。
 やっとわかってくれたようだ。長門はそのまま身に巻いているバスタオルを外しにかかる。って、へ?
 俺は咄嗟に壁を見る。だいたい俺が壁を向くのと長門の裸体が顕になるのがほぼ同時だ。バスタオルはそのまま床にパサ、と落ちる。大方身体を洗おうとしてるんだろ。
「長門……はぁ」
 本人を向かずに言っても説得力がないのはわかっている。だが向いて話すことはできないので仕方がない。
 もうこれ以上俺を疲れさせないでくれ。


 結局疲れを癒すためにある風呂も逆に疲れが溜まるだけとなり、これからどうするか考える暇もなかったために俺は暇をもて余している。
 暇、というよりもとりあえずこの疲れを癒したい。こういうときは寝るのが一番いいのではあるが、ここは長門の家である。さすがに泊まるのはいろいろと問題があるだろう。
 だからと言って今から帰る、となるとそれもまた無理である。その場合野宿で補導だ。
「むぅ」
 結局長門の家に泊まることにした。バレなきゃいいんだ、バレなきゃ。
 そうと決まれば眠らせていただこう。変に眠気があるしな。さっき眠ったはずなのだが。
「長門」
「………なに?」
「部屋と布団を貸してくれ。今日はもう寝る」
 俺がそう言うと、長門は過去に俺が入ったことのある部屋を指差し、
「布団は敷いてある」
 と一言。戸を開けると布団が二つ、くっつくようにして敷いてあった。
 この光景には見覚えがある。三年前の七夕にここで朝比奈さんと時間を止めてもらうことで今に戻ってきたからだ。
「……何で布団が二つあるんだ?」
 率直な質問。長門に投げかける。
「部屋は一つのほうがいい」
 どういう意味だ。
「私もここで寝る」
 もう長門に突っ込んでる精神的余裕はない。軽く流して、俺は布団に潜り込む。
 もう、どうにでもなれ。俺は目を閉じ、今日二回目の夢の世界へと旅立った。

 ……はずだったのだが。
 おかしい。やけに眠れん。眠気があるにも関わらず、意識はずっとある。
 まぁ理由はわかっている。考えずともわかる。
「……眠れるわけがない」
 横を向けばすぐに寝息をたてる長門がいる。すぅ、すぅと規則的に。
 こいつにも休息は必要なのだろう。こうして見ていると宇宙人には見え……いや。
 もう長門は人間だ。ヒューマノイドインターフェース? 知らん。こいつは人間以外の何者でもない。俺はそう思うね。
 だからこそ、俺も躊躇っているのだろう。ここにいることや、寝てることを。
 もしかしたら、ハルヒにバレた場合の死刑に怯えているだけかもしれんがな。
「……帰るべきだな」
 俺はそう決めると、自分が潜っていた布団を剥がし、起き上がる。ある程度の疲れは取れている。帰ることはできそうだ。
「………どうしたの?」
 長門の声。どうやら起こしてしまったらしい。
「悪い、起こしたか?」
「気にしないで」
 別にいいらしい。ハルヒだったら殴られてただろうな。
「とりあえず、帰るよ。泊まるのは何か気が引けるしさ」
「………そう」
 暗がりだったから顔はよく見えなかったのだが、長門が寂しそうな表情をしたような気がした。
「……でも、私の命令権は今日一日」
「悪いな、もう十二時だ」
 事実、時計の針は十二時を指している。長門の命令権も終わりだ。
「……じゃあまた明日な」
 明日と言ったはいいが、実際会うのは今日だが。そう思いつつ立ち上がり、歩き出そうとしたときだ。
「…………」
 長門は無言のまま、俺の服の裾を掴んだ。その力は弱く、力をいれずとも払える程度だ。
「…………」
 長門が何かを訴えているように見える。長門の顔が見えるのは暗闇に目が慣れたからだろう。
 俺は長門の手を払おうとするが、できない。簡単に払うことはできる。だが、以前の長門を思い出してしまう。改変された世界の長門だ。あいつは確か、涙を知っていた。
 俺が今、手を払ったら何かが変わってしまうような気がする。今目の前にいる長門が、あの時の長門になってしまうような気がする。だからできないのだ。
「………わかったよ、帰らない」
 俺にはそう言う選択しかできなかった。それを聞くと、長門は手を離した。
「…………そう」
 声自体に変化はなかったが、俺には長門が喜んでいるように聞こえた。気のせいだと思うが。
 再び布団に戻る。生暖かいのは俺の体温のせいだろう。特に気にすることもなく、瞼を閉じた。



 ……また。

 俺は何度繰り返す。

 この暗闇の世界を――

「…………はぁ」
 溜め息を一つ。
「同じ夢、か」
 見たのは夕方と同じ夢。何もかも同じ。何も変わらず、同じシーンを繰り返していた。
「……全然眠れてない」
 ふと、時計を見ると指しているのは一時。布団に入ったのが十二時過ぎであるから一時間すら眠っていない。
 夜目が覚めることはたまにあるため別段気にもせず、再び寝ようと試みて寝返りを打つ。
 何かが顔の近くにある。朦朧としてきた意識でそれを確認するつもりはない。俺はそのまま夢の世界へ……
「……すぅ」
 旅立つことはなかった。
 吐息が顔にかかる。誰の吐息かは薄々気付いている。
 俺が目を開けると
「………んなっ」
 長門の顔がまさに目と鼻の先にあった。それもこれは少し動けば唇と唇が当たる、という爆弾である。
 だからと言って長門を再び起こすのも悪いと思う。人間と同様に休息を必要とするならば、それを妨げられるのは嫌う。
 だから俺が身を引いて再び寝返りを打った。の、だが。
 どうすればこういう状況になるのだろうか。長門が俺の布団の中に入ってきた。
「……ちょっと待て」
 と言うが時既に遅し。長門の身体は俺の真後ろにある。これ以上寝返りを打てば俺は布団からはみ出てしまう。だからといって、布団から出て長門の布団で寝たら犯罪だろう。
 ここまで近付くと長門の体温を感じる。やはり人間に、って冷静に考えている場合ではない。
「長門、起きろ」
 無視。というか聞こえてないようだ。
「長門、起きてくれ」
 変化なし。
「長門っ!」
 一向に起きる様子はない。手がつけられん。
「というか、誰か助けてくれ……」
 もう、どうにでもなれ。俺は長門を起こすことを諦め、睡眠欲を満たすために眠ろうと試みる。

 ……眠れるわけがないがな。
 後ろに年頃の女性が体温を感じるほど近くで寝息を立てて寝ている状況で、あなたは眠れますか? 誰に話しかけているんだろうね俺は。
 やはり長門も一端の女子高生であるためか、俺は正気でいられるような気がしない……って何を言っているんだ。誤解をするな。
「……朝か」
 いつの間にか窓から朝日が差し込み、一日の始まりを教えてくれる。俺の始まりはかなり前だった気もするがな。
 それも今更になって長門が離れる。本当に寝ているのか? だとしたら寝相悪すぎるぞ。
「…………ん」
 などと言っているうちに長門の目も覚めたようだ。あと数時間前、俺が起こしたときに起きて欲しかったが。
「長門、起きたか?」
 俺が聞くと長門は上半身を起こし、首を少し縦に振る。
「寝てる間のことは覚えているか?」
「…………?」
 覚えてないらしい。ということは完全に寝相である。寝相が悪いことが判明、次回からは離れて寝よう。もう寝る機会なんてないだろうがな。
 そんな朝を全力の眠気が襲い、二度寝したいが時間もなく。と、そういえば。
「道具がないじゃないか」
 昨日家に帰ったわけではないので、鞄等がない。とはいえ、もう授業という授業はない。だが筆記用具程度は必要だ。
 他人に借りる、という手もあるが自分の使い慣れたものを使えるのが一番いい。どうするべきか。
「鞄ならある」
 長門が言う。どこに。
「そこ」
 と長門は部屋の一角を指差す。見るとそこには……何とまぁ、俺の鞄が置いてあるではないか。いつ持ってきたのだろうか。
 それよりも。
「長門、家への不法侵入は犯罪だぞ」
「そのようなミスはしない」
「……ミス以前の問題だっての」
 もう何と言うか、話が噛み合わない。これ以上話しても無駄である。そう考えた俺は、
「朝飯、貰えるか?」
 先に空腹を満たすことにした。昨日あれほど食べても腹は減るらしい。

 いわゆる日本の食卓、朝飯に焼き魚と白米をいただいた後、以外と時間があることに気付く。
「……長門はいつも家では何してるんだ?」
 特にこれといってすることもないので、長門と話をすることにする。
「…………」
 やっぱり本とか読んだりしてるのか?
「……おでん」
「へ?」
「たまに作る」
 朝から何を作っているのかが知りたい。
「……好きなのか?」
「それなりに」
 話題の振り方を間違ったのか? いや、俺は間違ってないはずだが……
 ところで、おでんか。そういえば冬のあの時に朝倉が作って持ってきたような気がする。朝倉がいたころ、あいつはやはり作っては持ってきていたのだろうか。
 他にも様々と会話を交わす。ふと思えばこれほど長門と会話したことはなかったかもしれない。春のあの時は一方的だったからな。
 そんな考えを巡らせていると、長門が立ち上がる。
「時間」
「え? あ、あぁ、そうだな」
 今から行けば始業十分前には着くだろう。この頃に着ければいつもと変わらない。
 俺は長門が持ってきた鞄を持ち、いつもと違う玄関から学校へ向かう。隣には長門だ。変な噂が流れなければいいんだがな。
 長門が隣にいるといえど、朝の会話のせいか話すことが見当たらない。
「長門」
「なに?」
「最近、本は何を読んでいるんだ?」
「……鋼鉄都市」
 聞いたはいいが、それが何なのかはわからない。
 さっきからあまり会話はしていないが、傍目から見れば恋人、に見えなくもない。谷口に見られたのならうるさいだけでいいが、ハルヒに見られてみろ。即死刑……何か前も使った気がするな。
 まぁ、このまま何もないのが一番であるため、それを祈りたいと思う。

 ハルヒに見つからずに校内に入ることに成功したようだ。何とか有罪死刑判決は免れそうだ。
 さすがに教室は違うので長門と別れる。これはこれでよかったがな。
「長門、また部室でな」
「…………」
 何も言わずに長門は自らの教室に入っていった。相変わらず無口である。まぁ、あいつだからな。
 そのまま俺も自分の教室に入る。ハルヒはいつものように俺の後ろの席に座っていた。
「今日はやけに早いな」
「うるさいわね。あたしだってたまには早く来るわよ」
 口調からすれば不機嫌ではない。良かったと思っておこう。この様子じゃ朝俺と長門が一緒に来たことなんて気付いてないだろうからな。死刑は免れた。
 などと思ったのだが。それが早合点だったことには気付かなかった。
 事件は昼休みである。飯を食って寝てようと思っていたのだが。
「なぁキョン、お前涼宮から乗り換えたのか?」
 俺はいつものように谷口、国木田と弁当を食っていたのだが、谷口がいきなりわけのわからんことを言い出した。
「何の話だ」
「お前、今朝長門有希と一緒に登校してきただろ」
 どうやら見られていたようだ。また俺はこのうるさい奴に付き合わなければならんのか。
「お前は涼宮と付き合ってると思ってたんだがな……くぅ、あのAマイナーの長門有希だとは。どっちにしても何で神様はお前にばかり味方するんだ」
 勝手に話が進んでいるようだな。言っておくが俺はハルヒとも長門とも付き合ってない。完全なるデマ情報だ。
「キョン、二股は駄目だと思うよ」
 と、国木田が食い付いてくる。谷口の言うことを信じるな。無関係だ恋愛対象とは無縁だ。
「んー、そうだよね。キョンの好みはもっと変な人だもんね」
 ああ言えばそう言うか。
「まぁ安心しろキョン。どこかの国は一夫多妻制だ」
 何を安心しろと言うんだ。ふざけんな。いい加減にしろ。関係ないと何度言えば……
「キョ~ン~? 何の話?」
 前方で谷口が大口を開けたアホ面で俺の後ろを見ている。国木田もかなり驚いているようだ。
 俺の背後には理解不能なオーラを纏った人がいる。恐る恐る、振り返る。
「……振り返るとそこには、物凄い形相をしたハルヒが立っていた」
「何解説してんのよ」
 スカウターでの戦闘力計測不能。軽く億を超えてやがる。ええい、奴は化け物か。昨日も言ったな。
「有希がどうしたの?」
 完全に聞かれていたようだ。谷口、俺はお前を許さんぞ。お前のせいで俺は死刑になったんだからな。
 きっと執行場所は屋上の階段だろう。ネクタイを掴んで有無を言わさず連れていくのだろうな。
「ちょっとこっちに来なさい」
 予想通り、ハルヒは俺のネクタイをぐいと引っ張って執行場所へ連れていく。
「キョン、生きてたらまた会おうぜ」
 横目で谷口を見ると、あたかも自分は関係ないように振る舞いやがった。覚えてやがれ。


「有希がどうしたの~? キョン、正直に答えないと死刑だかんね」
 と、俺より背が低いはずなのにネクタイを引っ張りあげてハルヒが言う。正直に答えても死刑にされると思うのだが。
「あー、多分聞いた通りだ。朝、確かに俺は長門と登校した」
「へぇ、あんたにしてはやけに素直じゃない」
 ここで嘘を言ってどうなる。事実だし既にわかってることだろうしな。というかネクタイから手を離せ。苦しいから。
「で? じゃあなんで今日は有希と一緒だったか教えてもらおうじゃないの」
「えー、それはだな……」
 ここで長門の家に泊まった、なんて言ってみろ。即死刑執行、この場が血の海だ。
「……たまたま一緒になっただけだ」
 我ながら、苦しい言い訳だと思う。だがほかにないだろう。
「ふぅん? それで?」
 まだ続くか。その場で考えるのも大変なんだぞ。言ったところで聞かないだろうが。
「別にそれ以上のことはねぇよ。長門が一人で歩いてきてたから会話も兼ねて並んだだけだ。付き合ってるわけじゃない。恋愛感情もなしだ」
「……そうね。あんたみたいな奴が有希と付き合ってるわけないもんね」
 納得したのはいいが俺みたいな、とはどういうことだ。
「そのままの意味よ。そういうことならいいわ」
 ハルヒはずっと掴んでいた俺のネクタイをやっと離し、足早に去っていった。
 ふむ、アドリブでハルヒに勝てるとは思わなかった。あのハルヒを納得させたんだから誰か何かの賞をくれ。何でもいいから。
 そういえば飯も途中だ。時間はまだあるので食べに戻る。
 教室に入ると谷口が俺を見て目を見開いていた。
「……まさか幽霊か!」
 とりあえず一発殴っておいた。

 放課後。部室へ入ると長門がいつもの定位置に座って本を読んでいた。いつも思うのだがこいつの移動速度はどれくらいなんだろうね? 俺がここに来るときはいつもいるぞ? 授業には出ているらしいのでここにずっといるわけではないしな。
「………………」
 無音空間。その静けさ、樹海の如く、という感じだ。たまに長門が本のページを静かに捲る音、それすらも大きく感じる。これなら何者かが後ろから息を潜めてやってきてもわかりそうだ。
 古泉でもいればテーブルゲームでもできるんだがな。朝比奈さんがいれば話相手になる。どちらかがいてくれればよかったのだが、いないのだから仕方がない。とりあえず誰かが来るまで寝てるか。単純に睡眠時間が足りない上、昼も眠れなかったからな。
 そう決めると俺は椅子に腰掛け机に突っ伏した。意識は簡単に遠退いた。
 だが目が覚めるのは案外すぐだった。三十分後、といったところだろう。
 寝起きの半分意識のない状態で、目を擦りながら身体を起こす。
 だが意識はすぐに覚醒した。目の前に朝比奈さんがいたからだ。いつもの給仕服である。つまり俺が寝ていた間に朝比奈さんは着替えていたのだ。あと十分早く目が覚めていたら朝比奈さんの着替えを拝めたかもしれなかったのに。我ながら惜しいことをした。
「あ、起きましたか? じゃあ今お茶を淹れますね」
 などと考えていると、朝比奈さんも俺に気付いたようだ。お茶を飲めるだけありがたいと思っておこう。
「カーディガン」
「へ?」
 すぐ真横から長門の声。振り向くと、隣に椅子に座る長門がいた。わざわざ隣に置いたのか? 近いぞ。
「返して」
 何を言っているんだ。それはお前が着て、ないな。
 ふと、とあるシチュエーションがフラッシュバックし、俺は自分にかかっているものに気付く。ほぼ間違いなく長門のカーディガンだろう。
「あぁ、これか?」
 肯定。
「……ありがとな」
 俺はそう一言言い、カーディガンを長門に返す。長門は受け取った直後、それを普段のように着る。
「はい、どうぞ」
 長門が普段の姿に戻った頃、朝比奈さんがお茶を俺の前に置く。早速それをすする。やはりこの味である。旨い。
 先日親が淹れた茶を飲んだのだが、比べ物にならなかった。十対0で朝比奈さんの勝利である。まさにこれが雲泥の差というものだろう。何が違うのだろうか。
「長門さんもどうぞ」
 朝比奈さんはそう言い、長門にもお茶を出す。
「…………」
 長門は珍しく出されたお茶を手に取り、一口。
「……おいしい」
「え……あ、そうですか? よかったぁ」
 こうやって朝比奈さんと会話する長門も珍しい。会話なんて俺以外成り立ってるように見えないからな。
「長門さんも変わりましたねぇ。僕から見て、ですが」
「ああそうか古泉帰っていいぞ」
 俺は戸を開けたのにも関わらず中に入らず廊下からものを言う糸目に言い放った。
「さすがにその反応はどうかと思いますが。でも、言われずとも帰るつもりです」
 やはり少し機嫌を悪くした様子で言う。だが帰る、とな?
「少し用ができたのですよ。もしかしたら明日まで延びる事情かもしれません」
 また機関か閉鎖空間か。
 俺と古泉が話している間、朝比奈さんと長門は蚊帳の外である。あ、でも各々何かしてるな。
「機関ではありますがそちらではなさそうです。閉鎖空間が関与していることならばこのようにしてる時間はありませんから」
 会議か何か、ってところか。まぁ行ってこい。俺は朝比奈さんと長門に囲まれた時間を堪能してる。
「そのような発言は控えたほうがよいと思いますが。まぁいいでしょう。涼宮さんに伝えておいてくださいね」
 古泉はそう言うと、戸を閉めてどこかへ行く。そういや機関ってどこに集まってるんだろうね。
「ふぅ」
 俺は椅子に寄り掛かり、朝比奈さんと長門を見る。そんな時だ。ハルヒが来たのは。
 いつものように大音量で何かを言いながらドアを勢いよく開けず、静かにカチャリ、とドアを開けたので、最初はハルヒだとは思わなかった。
 ハルヒは半分呆けている俺、いつもと変わらず無口の長門、そいて最後に少しだけ朝比奈さんを見て一言、
「……今日は解散。じゃあね」
 そう言ってドアを閉めた。
 部活はハルヒが入ってきた時から始まるとして、ドアを開いてから閉めるまでは約五秒。つまり今日の活動は五秒終了。短すぎだろ。
「…………」
「…………」
「…………」
 俺と朝比奈さんが黙ってしまったので、まるで長門が三人になったかのようだ。もちろん俺は俺だし朝比奈さんは朝比奈さんだ。
 朝比奈さんを見る。朝比奈さんは口を開いたまま硬直している。「着替えた意味あったんですかぁ?」とでも言いたそうに。
「……帰るか」
 俺は少し温度の下がったお茶を一気に飲み干し、帰り支度をする。
 朝比奈さんは未だ固まったままだ。朝比奈さん、いつまでそうしてらっしゃるおつもりですか?
 俺はそのまま帰路につく。止める者はいないだろう。
 帰ったらそうだな…………寝るか。まだ眠いからな。

 特に何も起こらずに、俺は家に着いた。即座に俺の部屋のベッドへと向かう。
 そのまま身をベッドに預け、俺は眠りに…………つくはずだったが。
 突然、俺の携帯から着信音が鳴り出す。バイブレータ、オン。振動で目も覚める。
 誰だ、こんなときに電話をかけてくるのは。古泉だったら即切って明日殴ってやる、と考えながら携帯を取り出し、表示されている名前を見る。
『長門有希』
 俺はすぐに通話ボタンを押す。
「あー……、何か用か?」
 先程から睡魔が襲ってきていたので、どこか間抜けな声が出る。
 ふと思うと長門から電話なんて初めてじゃないか? 俺の記憶に残ってないだけで過去にあったかもしれんが。
「伝えなければならないことがある」
 長門は電話でもいつもと変わらない淡々とした口調で言う。
「……何だ」
 俺は先とは違う、真面目な声で反応する。睡魔なんて今ので吹き飛んだ。長門からこんなことを言われたんだ。当然の反応だろ?
 そのまま、長門が言う。
「これから先何があっても、意志を貫いて。あなたの、意志を」
「どういうことだ?」
「詳しく説明することはできない。守って」
 いきなりこんなことを言われてもわけがわからない。だが、長門が言うことだ。説明はできないが、大切なことなのだろう。
「……ああ、わかった」
 だから俺はそう返事しておく。
「約束」
 長門はその言葉を最後に伝えると、電話を切った。
 約束、ね。ハルヒとの約束だったら即時破るんだが、相手は長門だ。守らなきゃ何かならないだろう。
 でもまぁとりあえず……寝よう。

 この時は危機感なんてまったく感じなかったんだがな。感じろ、というのも無理だろうが。
 実はこの時、世界規模の危機が俺の近くから起こり始めていた。何でいつも俺が中心点にいるんだろうね。ハルヒのせいか。
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